自動車というのはこれまたおもしろいもので、助席や後部席に座ったときと運転席に座ったときではみえてくる風景も気分もずいぶんと違うものである。18年前に私は祖父の運転する車の後部席にのり、夏休みの初日を迎えていた。
祖父は夏休みに入った小学生低学年の私と兄を、片道1時間半程の実家から迎えにきてくれたのだった。例年は父親の運転する車で実家に遊びに行っていた、それはそのたった1回きりの珍しい出来事であった。その『1回きり』というのがなんとも新鮮で、私はそのときの1時間半の風景をよく覚えている。
祖父は小さな身体の私と兄を心配し、途中で通る小川沿いで少しばかりの休憩をとった。父親が運転する後部席だと気づけない風景であった。20年通っても、みつけることのできない風景であった。そして今、自らが運転席に座りその道をなぞった。そこにはあのときの小川沿いがそのままの状態で佇んでいた。あのときは夏休み初日であるのに、川沿いには桜並木が立ち並んでいるように華やかで、暖かかった。
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