2016.02.05   民間伝承

戦い前夜の静けさと道具の補充・磨きは『感性の絶頂期』である。

これから何か戦いの局面が迫っているときに、例えばその直前や前夜などにやけに静まりかえるときがある。そのようなときに、その戦いで実際に使用する道具を磨いたり補充をしたりする時間というのが妙に美しいものである。『備えあれば憂いなし』とはまさにこのことである。
スタジオジブリの『紅の豚』で、ポルコ・ロッソがドナルド・カーチスとの決戦前夜に、飛行艇の弾をひとつひとつチェックしているシーンがさり気なくあるが、あのときこそが私が大切にしたいと思っている時間である。

さて、そこで私はあの戦い前夜の静まりかえった状態を『感性の絶頂期』と捉え、その感性の絶頂期にもっていくまでの心構えを簡単にまとめてみた。


戦いについて考えるときに、私は孫子(そんし)を参考にしてみる。孫子は中国春秋時代の人物であるが、書『兵法』ではどうすれば勝てるか、または負けない戦ができるか、そのための戦略・戦術をまとめたものを紹介している。現代では組織論やリーダー論など、ビジネスの基本として例えられることも多いが、ここで改めて孫子兵法の三大要素ともなるべき部分をまとめてみる。

1.戦わずして勝つ
2.勝算なきは戦うなかれ
3.情報に金をおしむな

この3つをみると、考えなくとも浮かび上がってくることがある。それは結局のところ『備えあれば憂いなし』状態であることだ。戦わずして勝つためには、前もった勝算が必要である。よく『根拠のない自信』によって戦いに挑むこともあると思うが、その根拠のない自信を持つということ自体が備えになっているわけで、立派な勝算になっているものである。情報のために金をおしむなというのも、結局のところはその根拠のない自信も含め、どれだけ自分に金=時間や労力を費やしたかという問題なのである。

磨きと補充さえ自信になる。

つまり、戦いの前夜に普段からつかっているものに磨きや補充の時間を費やすということは、これまでに費やしてきた時間を意識的に高める効果があるわけである。戦い直前に、これまで積み上げてきたものを思い浮かべなければ強い精神性は生まれないのである。人間の記憶など視覚で捉えているものがほとんどである。お守りや縁起物などが信仰され続けているのも物理的な記憶として捉えているわけであり、どんに神頼みをしても肝心なときにその神の存在を忘れてしまえば元も子もないのである。

孫子兵法を参考に考えると、感性の絶頂期にもっていくためには『備えあれば憂いなし』の状態へ気持ちを整えていく必要がある。戦わずして勝つ、勝算なきは戦うなかれ、情報に金をおしむなという戦い前の三大要素が、ポルコ・ロッソでいう弾チェックへと結びついている。もちろん、最終的にはポルコ・ロッソも勝つわけである。


槍の間合いもまだまだだな。