2015.07.23 民間伝承 引き算,待機,数珠,男爵,西陣織,鍵
よく干されたシャツを着たら、たった数ヶ月でよく色落ちをしてしまったズボンを履く。財布は行先の場所を選ばず、そっとポケットに忍ばせた。鞄こそは場所を選び、場合によって持たないこともあるが、あえて持っていってもその中身はほとんど見ることもなければ、開くことすらない。もしも引き算をしなければならないのなら、身体から鞄をそっと引いてあげるのである。
鍵は必ず持ち歩いている。キーケースやキーホルダーは付いていない、きっと引き算好きの男爵に引かれてしまったのだろう。倉庫に眠る西陣織のカバーも長らく寝たきりとなっており、もはや西陣織だったか龍村織物であったかさえも定かではない。いや、きっと西陣織であっただろう。あの華奢な生地はまぎれもない西陣織だ。
置いてかれる数珠は、代理にヘアゴムとなって役割をはたす。己の役割など自身が知らずとも、待機中の数珠はそっと念じかけている。物理的な距離感などはまったく意識しておらず、数珠はひたすら精神的な距離感を掴みきっているもよう。
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